岩手大学 農学部 応用生物化学科
細胞生物学研究室
研究内容
現在はイネと4葉のクローバーが主な研究材料です。人間ではガンに関わる遺伝子が、イネの場合は種子や米ができる過程の細胞増殖に関わっていることがわかってきました。そこで、ガンに関わる遺伝子を中心にイネの種子のできるメカニズムについて解析を続けています。
もう1つは4葉のクローバーの発生に関する研究です。クローバーはマメ科のため肥料を与えなくても、空気中の窒素を固定し栄養を取ります。発育がとてもよく、栄養価も高いので、牧草としての利用価値も高い。なので、4葉のクローバーでいっぱいの牧場を作り、そこで牛を飼育できたら理想的だと考えました。4葉のクローバーで育てた牛ということで、縁起のいい牛に育つのではないかと。広い草原を4葉のクローバーでいっぱいにするのが夢です。
研究で得られた結果が予想通りでなかった時それは失敗ではなく、新しいことが含まれていたという事例は世界中でよくある事です。そういうところに面白いことが隠れている。それを見逃すか、見逃さないかで研究の成果は変わってくると思います。研究が上手くいくかわかりませんし、問題が起これば自分で解決しなければならない。難しさはありますがそこからどう自分で切り開いていくかです。学生にはそういう力を伸ばしてもらいたいです。
ゲノム編集技術を利用したイネ種子形成メカニズムの解析
ゲノム編集技術の発展により、狙った遺伝子だけを改変することが可能となり、品種改良効率が飛躍的に向上すると考えられています。作出されたゲノム編集生物は自然界で発生する突然変異体と区別がつかず、日本の法規制でも、開放系での栽培・育成・販売が可能となりつつあります。数年内に肉量が増加したマッスル真鯛、アレルゲンのない鶏卵、芽の毒がないジャガイモなどのゲノム編集生物由来の食品が市場に出回るものと予想されています。
イネは米どころの岩手にとっても重要な作物であり、収量の増加だけでなく、寒冷・高温気候に耐える品種や人気のリゾットに適し、日本の気候でも栽培できる中粒種の開発などが求められています。
イネの胚乳発達は温度による影響を受けやすいことが知られています。低温では胚乳発達初期の胚乳核増殖が遅れ、高温では、種子内の細胞増殖速度が向上しますが、種子の品質が低下する現象が知られています。よって、寒冷による生産量の減少、温暖化による米粒の品質低下などが問題となります。このような気候変動に対して安定した米の生産量、品質を維持するためにもイネ種子形成の分子メカニズムの解明は重要です。
イネ胚乳核は受精直後から活発に増殖しますが、細胞質分裂がおこらないためシンシチウム(多核体)が形成されます。その後、細胞化が起こり、胚乳は単核の細胞の集合体となります。胚乳核の増殖速度は一定なので、シンシチウムを形成している時期の長さが種子サイズを決定づけると考えられます。
本研究では、動物細胞ではがんに関わる遺伝子で細胞周期進行のブレーキの役割を果たすCKI(cyclin-dependent kinase inhibitor)の1つOrysa;KRP3がシンシチウムを形成している時期の胚乳で特異的に発現することを発見しました。
さらに最近、この遺伝子をゲノム編集で操作することにより、種子長を増大させることができました。この他、イネ種子形成初期で特異的に働いていると思われるいくつかの遺伝子を見つけているので、今後、これらの遺伝子の機能を調べることにより、気候変動に対処できたり、収量の増加やリゾットに適した種子形状のイネの作出やイネ種子形成の分子機構解明を目指して研究を進めています。
シロツメクサ(クローバー)の複葉形成に関わる遺伝子解析
シロツメクサは、明治期に牧草として日本に導入され、畜産業にも力を入れる岩手県においても寒冷地でも生育できる牧草としての重要性もあるのではないかと思います。また、稀に出現する4葉のクローバーは幸運の象徴とされています。花巻市で発見された56葉のクローバーはギネス記録に認定されています。
これらの多葉性クローバーはお守りやフレンチレストランでのツマ物としても利用され、4葉のクローバーを出荷する農家も存在します。また、高頻度で4葉のクローバーを産生する株を地域おこしに利用している自治体もあります。
4葉のクローバーに対する関心は、一般の方々にもある程度あるようで、本研究室にNHK「マサカメTV」、「チコちゃんに叱られる」、TBS「その差って何ですか」、「所さんの目が点」、名古屋テレビ「全力リサーチ」「ドデスカ」、テレビ静岡 「ただいま!テレビ」、テレビ東京 「おはスタ」等テレビ番組や、小、中、高校生からの問い合わせをいただいております。よって、このような研究は主に学生に対して自然科学に対する興味の深化と将来の研究者育成に対しても意義を持つものと思われます。
これまで、多葉性の発生は環境要因や遺伝的要因による可能性が示唆されていますが、具体的にどのような遺伝子が作用しているのかは未だに不明です。
そこで我々は、クローバーの多葉性発現についての遺伝子レベルでの解明を目指し研究を開始しました。
現在、複葉形成に関わるいくつかの遺伝子クローニングに成功し、これらの遺伝情報をもとに、多葉性クローバー作出の研究を進めています。現在までのところ、これら遺伝子の1つを改変することにより、小葉の枚数までは改変できませんでしたが、葉の形状を変化させることに成功しています。
今後、最近よく用いられるようになったゲノム編集技術を利用することにより、4葉のクローバーを作出していきたいと考えています。
また、クローバーと同じマメ科の食用作物である雁喰豆、黒五葉などの黒豆種では多葉がある頻度で発生し、これが鞘内の豆数増加と相関があるという報告もあります。
クローバーの多葉発生機構の研究は、クローバーのみならず、食用作物の収量増加にもつながる可能性も考えられます。